|
メールマガジン ”中国スポーツ独白”(2003.5.3号)より転載
〜スポーツから「中国の市民生活」や「等身大の中国」が見えてくる〜
〔発行・構成・執筆〕坪井信人
こんにちは。
SARSアタック。北京にいるだけで「時の人」です。中華人民共和国建国50周年、北京五輪( 2008年)誘致成功、サッカーW杯本選への初出場決定、世界貿易機関(WTO)加盟、上海Expo(2010年)誘致成功……。
北京に来てからというもの、北京または中国は、脚光を浴び続けていますから、ずっとその潮流に気持ちよく乗っていました。しかし、今回ばかりは何とも居心地が悪く、生活も仕事も制限が多くなってしまっています。
「隔離された生活区」と「隔離されていない生活区」に住む人の心境には、大きな差があると思います。私は後者であり、たいした不安は感じていません。だいたい、中国に生活していて、政府の発表数値を疑うのは、中国人、外国人に関わらず当然のことですから、衛生部長や市長が更迭される前と後で、不安の度合いはそれほど変わりません。不安がないはずはありませんが、生活している以上、この感情と付き合っていくしかないかな、と思っています。
私の想像では、北京(中国)在住の日本人で、自分の意思に反して、日本の家族や友人を心配させないために帰国した人は多いと思います。私自身、生活していく上での不安は比較的小さく、ブレイキングニュースで、「感染者×人、死亡者×人」という数字を見た時に不安になったり、家族や友人からのメールを見て、「申し訳ないなあ」と思うことが多いという、「逆転現象」が起きていますから。
(SARS情報は、中国語、日本語のほか、半分も理解できないながらも英語でも収集しています)
さて今回は、「歓迎したくないスポーツ熱」について紹介します。(5月1日記)
「健康な体でSARSに勝とう」……と言っても間に合わない。
普段、大して運動をしていない人が、突然、負荷の高い運動をしたらどうなるでしょうか。体の栄養補給が追いつかず、一つひとつの細胞が栄養不足に陥って、体調を崩すのが落ちでしょう。いまの北京には、そんな人が増えそうな空気を感じます。
中国のメディアは、「抗撃非典」(SARSに対抗)をうたい、健康な体を作るための「適度な運動」または「有酸素運動」を奨励しています。それを受けて、一部の短絡的な市民は、「運動をすればSARSに感染しないんだ!」とばかりに、目を輝かせて運動に励みはじめました。
ちなみに「有酸素運動」とは、持久力(心肺機能)を高めるために、大量の酸素を吸い込みながら行う運動のことで、軽めのジョギングや早歩きなどを指します。広義では、「無酸素運動」(短距離走など、きわめて短い時間内で全力を使い切る運動)ではないスポーツ全般を含むようです。
4月23日の中国体育総局(スポーツ省)の体育イベント中止勧告に続き、北京市政府が、4月30日付けでフィットネスクラブや室内スポーツ施設の一時休業命令を出しました。しかし、屋外バスケットコートやサッカー場、道端の歩道やちょっとした空き地には、バスケット、サッカー、バドミントン、卓球、縄跳びを中心に、汗を流す人があふれています。
若者がスポーツを楽しむ姿は、普段からよく見かけますが、突然、「中高年のスポーツマン」が増えたのには違和感を覚えずにはいられません。人から聞いた話では、中国のある機関では、長く行っていなかった全体体操(中国にもラジオ体操があります)を復活させたようです。「人ごみを避けろっていうのにねえ……」というヒソヒソ話が多い中、健康管理に力を入れているのです。
体を動かすこと自体は、いまのような非常事態でなければ微笑ましい光景ですが、どれだけ体を動かせば適切かを知らない人たちが、突然スポーツをすることで、「極度の疲労」=「免疫力低下」=「SARS感染者増加」という悪循環につながらないか、心配になってしまいます。
北京では、「発熱」=「隔離」、「近所で疑い例発見」=「隔離」といった徹底的な対策がとられているため、比較的安心して暮らせる半面、もし、突然スポーツをはじめた人たちの「免疫力低下」により、身近で「疑い例」などが増えた場合、自分も同じように外出禁止になってしまうという、「安全のために不便さを受け入れなければならない意味での危険」を感じます。それだけに、盲目にスポーツをする人たちが増えた現状を平然とは看過することができません。
おそらく、国やメディアも、ここまで市民が反応するとは思っていなかったでしょう。ひっきりなしに、「激しい運動は、過度の疲労を引き起こし、免疫力を低下させる」という専門家の言葉も紹介されていますが、一部市民は、そんな「つけたし程度の注意事項」は耳に届いていないのではないかと思えるほど、スポーツに精を出しています。
無理もありません。自分を含め、「どうすれば安全に暮らせるか」に頭を悩ませていた答えの一つをメディアが提示してくれたのですから。ただ、頭を使わずに盲目に信じていいかは別問題。
今回のSARS騒ぎで、深く考えずに行動する「大衆」(民主主義でいうところの「衆愚?」)が、メディアによって出来上がっていく過程を見て、薄気味悪さを感じています。
(おまけ・街角より)
・北京の街は、かなり清潔になってきました。小さなレストランに入って、足跡もな いほど、きれいにモップ掛けされているのは感動モノです。黄砂が多く、乾燥している北京では、店舗内を清潔に保つことは、日本の数倍手間が掛かる作業です。
・「内装工事のため休業」というレストランが増えました。現実はもちろん、SAR Sでの来客大幅減少、またはゴールデンウィーク休みを受けて。中には、「あなたと私たち従業員の健康のため、休業します」といった粋な休業理由も。
(注:北京への出張、旅行はお控えすることをお勧めします)
|