上海進出の弁−昔の名前で出ています

             公認会計士 三戸俊英

1 キャストコンサルティング株式会社の設立

 ひょんなことから、弁護士の村尾先生と東京三菱銀行を退職して上海でコンサルタントをしている高田さんと私とで、上海にコンサル会社を設立することになりました。

 その手始めに、まず20002月に日本において共同でキャストコンサルティング株式会社を設立しました。

 主たる目的は、この会社から上海に投資して独資コンサルティング会社を作ることにあります。

 また、日本の顧客との連絡業務なども行います。

 

2 加施徳(上海)諮詢有限公司の設立

 日本からの投資を受けて登録資本30万ドルで、2000年4月17日に営業許可証を取得して加施徳(上海)諮詢有限公司を設立しました。

 加施徳という字は、「ちぃあしぃとぉー」と発音し、「キャスト」の中国語による音の表記です。

 事務所の場所は、上海の浦東地区の陸家嘴の證券大廈の14階にあります。

 事務所の窓の向こうには黄浦江の流れと外灘の風景が目に入ります。

 今のところ、人員は日本人4名中国人9名の合計13人です。

 一番年よりの私が48歳で、総経理の高田さんが37歳、村尾先生が36歳というとても若いメンバーが中心になっています。

 私自身も、自分の年齢とこれからまだ残されているだろう現役期間についてふと考えさせられます。

 幸い、高田さんは7年間、村尾先生も3年近く上海に滞在したことがありますので、顧客の開拓は開始当初としては順調です。

 

3 上海駐在を目指す

 3人のなかで、上海に駐在したことがないのは私だけです。

 長く中国関係のビジネスで活動しているせいで、開業の挨拶などに回りますと、初対面でも「ああ、三戸先生ですか」といわれることもよくあります。

 しかしながら、やはりある程度上海に駐在して自分自身の日中双方の人脈を気づかなければ、具体的な仕事の受注には結びつきません。

 そこで、上海で仕事をする姿勢を明確にするため、ホテル住まいではなくマンションを借りることにしました。

 場所は、虹橋空港に近い虹橋太陽広場という高層マンションの25階です。

 1LDKのマンションですが、寝室、リビング、台所もゆったり取ってあり一人で暮らすには十分です。

 せっかく、このように意気込んでいるのですが、実はこの4月から関西大学商学部の大学院で「中国ビジネス法」を教えているのです。

 2週間に1度にまとめてもらったのですが、授業の日をはさんで出かけることができないので、上海に滞在できるのは一ヶ月に10日超がやっとというところです。

 今この原稿は、マンションの一室で書いているのですが25階の部屋からは虹橋の高層ビル群と空港へ行く高架道路と街並みが目に入ります。

 ちょうど涼しい風が吹いて原稿を書くのにぴったりの昼下がりです。

 

4 生活用具をそろえる

 私の入ったマンションは、机、テーブル、電話、炊飯器、ガス器具、冷蔵庫、掃除機、ベッド、ソファ、エアコン、クローゼットなどが最初からついています。

 それでも、いざ生活をするとなるといろんなものが必要です。

 そのために、近所の上海友誼商城と少し離れたフランス系スーパーのカールフール(家楽福)に土日を利用して買い物に出かけました。

  上海友誼商城は、上海市内からは虹橋空港に行く途中にあり、亡くなった高橋弁護士と上海でセミナーを開いたときなどは、よく寄りました。

 高橋先生は、2人の小さな子供さんの服などをよく買い求めていました。

 今同じところに、ナベやドライヤーなどを買いに来て、「ああ、先生が亡くなられてからもう4年もたったのだ」ということをふと思い出しました。

 カールフールは、いかに買い物を楽しみながらするのかという工夫が凝らされています。 大きなワゴンに買った物をいれ、斜めの平たい道になっているエスカレーターを上り下りして、精算しないままで別のフロアにも買い物に行けます。ワゴンは上るときも下るときも斜めになると自動的にブレーキが利くようになっています。

 豊富な品揃えと広く取られた移動スペースをゆっくり歩いていると、あれも買いたい、これも買いたいという気分にさせます。

 そのこつの一つは、日本のように一つ一つのスペースで勘定をするのではなく、フロアごとにか、場合によってはフロアをまたがって移動して勘定する仕組みにあると思われます。

 小売業の進出は中国にはまだ早いのではないかと思っていたのですが、大きなワゴンにいっぱいの買い物をしてつぎからつぎへとタクシーに乗り込むお客さんを見ていると、自分の考えが間違っていたことを知りました。

 もちろん、品揃えなどにかなりの努力と工夫がされているように見えます。

 

5 日本語表示の商品

 さて、カールフールで買い物をしていますと、商品の表面に日本語が記載されている商品が案外多いのに気づかされます。

 たとえば、バスマットには英文表記とともに「バスマット」と書かれ、使用説明は日本語です。これなどは、日本の100円ショップ用に開発された商品をそのまま日本語表示も含めて中国市場に流れているように思えます。

 また、竹の塗り箸には「らーめん、うどん、そば食べるなら竹ぬり箸いちばん」と表記され、これも製造メーカーの名前は中国のメーカーですが、「家庭用品品質法に基づく表示」とありますように、日本向けの商品をそのまま中国市場に出しているようです。

 最初は、日本人が英語の表示をありがたがるように日本語の表示がされているのかと思いました。

 たとえば、香港などではお菓子で「優の食品」等という表示がされているのがよく目につきます。

 カールフールの場合も、結果としてはそのような効果を期待しているのかもしれません。

 

6 やはり新人です

 中国関係のビジネスをもう15年ほどしてきていますが、中国に住んだことが無いという意味では新人です。

 こちらで仕事を一つ一つこなしてゆくと、例の税法の本を改訂するときはこんなテーマもあんなテーマも加えなければということによく出会います。

 自分自身の顧客を開拓しなければならないという意味では、今一度ぬるま湯から脱出する必要があります。

 たとえ、一ヶ月に10日でも、旅行ベースではなく生活の拠点を有している駐在ベースで自分の職域を広げたいと思っています。

 高橋先生と中国綜合研究中心の活動を立ち上げたときは私も40そこそこでした。

 今、自分でも実感の湧かない50歳を前にして、30歳半ば過ぎの方々とともに事業を開始することは、やはり流れ流れて年をくっても「昔の名前で出ています」というところでしょうか。

 上海では是非皆様のご来訪を心待ちにしています。